「税務職員の誤指導における納税の猶予の検討」(査読論文)経営会計研究第21巻2号163-176頁、日本経営会計学会(2017年)
【概要】
本論において、納税者が税務職員の誤指導により、申告当所に予測していた租税債務よりも過大な租税債務を負担することとなった場合に、納税の猶予の適用ができるのか否かを検討するものである。
本論は、税務職員の誤指導が行われた場合に、国税通則法63条6項の規定に限って、納税の猶予の規定を適用する場合に、納税者は国税通則法46条1項および国税通則法46条2項の適用がないとすれば、納税の猶予の機会はより狭義となる。このため、納税者の権利に資することを目的として論ずるものである。本論においては、国税通則法46条2項の適用は可能であると解すと結論付けた。
先行研究において、税務職員の誤指導における納税の猶予を検討するものは皆無であった。租税法の研究の多くが、所得課税の研究が中心であったことがあげられる。
このため、本論においては、第一に、税務職員の誤指導に関する基礎研究を検討した。第二に、納税の猶予の規定の「災害」について検討を行った。第三に、延滞税の免除の規定の調整について検討を行った。
第一に、税務職員の誤指導の先行研究として、租税法上の禁反言の法理(民法1条2項)および附帯税をとりあげた。いずれの先行研究においても、税務職員の誤指導を受けた納税者と他の納税者との課税の公平性が問題とされる。このため、税務職員の誤指導における納税の猶予の適用の検討の研究を行うにあたり、課税の公平性について研究を行うに至った。本論においては、税務職員の誤指導により、納税の猶予の規定の適用を受けることが、直ちに納税者の公平に反するとはいえないと結論付けた。
第二に、国税通則法46条1項に規定する災害等の納期限未到来の納税の猶予と国税通則法46条2項に規定する一般的な納税の猶予の「災害等」の範囲について検討を行った。本論においては、税務職員の誤指導については、一般的な納税の猶予(国税通則法46条2項)の適用は妥当であると結論付けた。他方で、災害等の納期限未到来の納税の猶予については、税務職員の誤指導により適用できないと結論付けた。
第三に、国税通則法63条1項、3項、6項3号の規定する延滞税の免除について検討を行った。国税通則法63条1項、3項と国税通則法63条6項3号の適用により、延滞税の免除を受ける期間が異なることを明確にした。本論において、国税通則法63条6項3号の適用に該当しない場合であっても、納税の猶予の適用が可能である場合があることを明らかにした。
本論において、租税法の通達の法源性をどのように捉えるかが問題となる。租税法における通達の法源性について、租税法律主義のもとでは、通達の法源性は否定が強調される 。しかしながら、租税法の領域においては法的安定性と法的予測可能性が強くもとめられるため、それらを担保する性質を有するといえる。このため、本論において、租税法の通達の法源性は否定するものの、租税実務において租税法の通達は尊重される実情を踏まえ研究を行うものである。