「不服審判制度に係る併合審理等の諸問題 要件事実と争点主義的運営を中心として」租税訴訟学会誌第13号104-125頁、財経詳報社(2020年)
【概要】
本論においては、併合審理等については、不服審判制度が争点主義的運営を行っていることに着目して、第一に、争点主義的運営の妨げにならない範囲で認めることが妥当であると結論づけた。
争点主義的運営がなされる場合の問題として、課税処分がなされた時点で、納税者が質問検査権等に応じず、十分な説明責任を果たさない場合も考えられる。法人税においては、法人の経営者はアカウンタビリティーを負うこととなり、租税行政庁に対しても同様の責任を負うと考えられる。所得税においては、青色申告決算書においてアカウンタビリティーを負っていると考えられる。納税者はステークホルダーにアカウンタビリティーを果たさなければならず、ステークホルダーの1つとして租税行政庁が含まれると考えられる。アカウンタビリティーを果たそうとしない納税者に対して、争点主義的運営を徹底した場合に、課税処分に係る事実認定が難しい場合もあり、処分時の認定理由に拘束されるとすれば、かえって、他の納税者の不利益にもつながりかねない。
このため、第二に、アカウンタビリティーあるいは説明責任(受忍義務)を果たそうとしない納税者については、併合審理等の範囲を広義に捉え、総額主義的運営を行うことが妥当であると結論づけた。すなわち、説明責任を果たそうとしない不誠実な納税者にまで、争点主義的運営がもとめられると、かえって、租税行政の円滑な遂行の妨げとなること、他の納税者の不利益となりかねないことが考えられる。このため、併合審理等の「必要があると認める場合」とは、総額主義的運営を前提として考えることが望ましいように思われる。
本論においては、納税者はアカウンタビリティーを含む受忍義務をいかに果たすかが重要であることを論ずる。このような受忍義務を果たすために、納税者と租税行政庁あるいは国の信頼関係がなければ、納税者は情報提供に対し消極的にならないことがあげられ、双方の努力により受忍義務が果たされ、租税行政の円滑な遂行・運営に資することを論ずる。