経営会計研究 25巻1号、 49-61頁
国税徴収法における徴収職員における差押財産の選択については、既に別稿[1]で論じたところであるが、給与債権等と条件付差押禁止財産の選択の優劣について、十分に論じられていないのではないかという意見を受け、本論においては、差押財産の選択に関して当該論点については再考を行うものである。
本論においては、先行研究で論じたように国税徴収法における徴収職員の差押えについては、差押財産を「資本としての財産権」と「人権としての財産権」とに大別し、「資本としての財産権」についてまず差押えを行うべきであると結論づける。次に「人権としての財産権」については、一般の差押禁止財産および給与の差押禁止および社会保険制度に基づく給付の差押禁止に係る権利を除き、(法律上、差押えが禁止されているものが除かれる)。①法律上、差押えの制限がなされていない滞納者の財産、②給与の差押禁止に係る給与債権と社会保険制度に基づく給付の差押禁止に係る給付を受ける権利、③条件付差押禁止財産、④第三者の権利の目的となっている財産の順序において行うことが妥当であると結論づける。
②給与の差押禁止に係る給与債権と社会保険制度に基づく給付の差押禁止に係る給付を受ける権利と③条件付差押禁止財産について、②に関する債権は納税者が生活費に充てる債権であり、差押禁止額が設けられていることから、徴収可能な額が過小となる場合もあり、③に劣後するのではないかという批判的な見解もあげられる。他方で、③条件付差押禁止財産が優先して差押えがなされるとすれば、事業継続に支障が生ずることとなる。
本論においては、個人事業主(フリーランス)に滞納国税が生じた場合に、③条件付差押禁止財産である事業の維持に必要な財産が差し押さえられ、事業継続が困難となることが考えられることから、個人事業主の事業の経営会計の研究に資することを目的として、論ずるものである。
また、企業会計において、例えば元請業者が下請け業者である個人事業主の事業の継続性が危ぶまれる場合に、連鎖倒産などといった経営リスクを負うところであるから、継続性の公準に影響を与えるものと考えられる。したがって、本論は企業会計の研究に資するものである。
なお、本論においては、給与および社会保険制度に基づく給付に係る債権を、「給与債権等」と略して論ずる。
[1] 長谷川記央(2021年)「国税徴収法における徴収職員が行う差押財産の選択」秀明大学紀要18号103-117頁。